齋藤さんショート

コロナ禍の緊急事態宣言で撮影の仕事がほぼストップした2020年。歩みを止め、自分の内面と向き合うことで、「僕は、カメラの"うつす"力によって人々にエールを贈りたい」という想いに気づくことができました。

映像表現に興味を持ったきっかけは、1つの映画でした。大学の授業で岩井俊二監督の『四月物語』を観たんです。松たか子さん演じる主人公がある目的を持って上京し、大学生活を送る日常が丁寧に描かれた作品です。大きな出来事は何も起こらない、ごくありふれた日常。でも、僕はその映像に深い感銘を受けました。
当時の僕は、未来に希望が持てず、無気力に生きていました。僕に見える世界はモノクロだった。でも、『四月物語』の映像描写が美しく、目の前には大切なことがたくさんあるのに、僕は見過ごしていたのだと気づきました。

そんなときに友人に誘われて写真部へ。はじめてフィルム現像と紙焼き体験をして、液の中の印画紙に浮かび上がった写真を見た瞬間に、「自分の魂を120%込められるものは、写真だ」と思いました。

大学卒業後は写真店で働いた後、広告カメラマンのアシスタントを経てフリーランスへ。さまざまな媒体で写真撮影をしたり、カメラ講師をしたり、最近では映像も手掛けるようになりました。

しかし、ある時から心の停滞を感じ始めました。
――どこかで休まなくては。
コロナ禍の緊急事態宣言が発令されたのは、まさにそんなタイミングでした。 社会全体が走っているときは、自分もそこについていかなくてはいけない、という焦りがありました。でも、世の中が止まったことで、歩みを止め、ゆっくりと自分の心と向き合うことができた。そうして、僕はかけがえのない存在を素直に大切だと思える心を取り戻すことができたのです。

誰だって、心が沈んでしまうことはある。そんな人たちに、自分がカメラでうつした世界でエールを贈りたい。これが、僕がたどり着いた答えです。
一寸先は闇であり、だけど一寸先は光でもある。突き詰めれば、僕は僕自身を励ますために世界を撮り続けているのだと思います。それでも願わくは、そうやって撮った写真や映像が、誰かの心を後押しするような「エール」となるように――。そんな思いで、今日も僕はカメラを構えています。

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