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2014年、20歳の頃から大好きだった麻雀のプロになり、競技麻雀を仕事にして生きていくことを決めました。

父が趣味で麻雀をしていましたが、家の中で麻雀の話題が出ることはなく、子どもの頃はまったく麻雀に触れる機会はありませんでした。私がはじめて麻雀と出会ったのは大学生になってからです。
早稲田大学に通っていた20歳のとき、テレビをつけたら、CS放送でプロの麻雀の対局が放送されていたんです。「あ、麻雀だ」とリモコンを持つ手が止まったのは、もしかしたら、父が趣味で麻雀をしていたことが頭の片隅にあったからかもしれません。
ルールも何もわからない中で対局を見始めたのですが、牌をカチャカチャと動かす音がすごく心地いいなと思って吸い込まれるように見入ってしまいました。
4人全員の手を見ながら実況解説を聞いているうちに、ルールも少しずつわかるようになり、そこからはずっと、自分ではプレイせず見る専門のいわゆる「見る雀」でした。

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麻雀との出会いは20歳のとき。テレビでたまたま対局の放送を見たのがきっかけ


自分でもプレイしてみたいなと思ったものの、麻雀は4人揃わなければできません。そのハードルが高かったため、ドン・キホーテで買ってきた麻雀牌を1人でカチャカチャ触ってみたり、スマートフォンのアプリで麻雀をしてみたり、そんな時期が長く続きました。
大学を卒業する頃には、年に何回か友達と麻雀で遊ぶようになったのですが、対戦する友達はみんな私より麻雀歴が長く、当時は勝つための知識もなかったので、最初はずっと負けていました。あまりに負けが続くので落ち込んだこともあります。

――私はこんなに麻雀が好きで、四六時中麻雀のことばかり考えているのに、麻雀に向いていないのかな……。

でも、「いや、まだそう判断するほど対局を経験していないじゃないか」と思い直し、そこから戦術本を読んだりして、勝つための打ち方を探求し始めました。
なぜ私はここまで麻雀に引き込まれていったのか。
理由はいくつかあると思うのですが、1つは麻雀牌のフォルムや音が感覚的にとても好きだったこと。そして、麻雀のゲームは展開がとてもドラマチックで、物語に溢れていること。麻雀のベースは数字の組み合わせによる確率のゲームですが、4人で戦うことによって不確定要素が多くなるために、さまざまなドラマが起こります。それが麻雀の大きな魅力だと思います。

夫に背中を押され、麻雀番組の生徒役に

大学を卒業後、通信系の企業に就職。麻雀は大好きだったけれどあくまでも趣味であり、仕事にすることは想像もしていませんでした。
数年働き、結婚を機に会社を退職。新生活の拠点が会社から離れることも退職を決めた1つの理由でしたが、もともと高校生の頃から「母親になりたい」という願望が強かったんです。それは、子どもが好きだったこと、そして尊敬する母親の姿をずっと見ていた影響だと思います。

私にはこの先送りたい生活のイメージが明確にあったため、迷いはありませんでした。振り返って、これも、人生においてとても大きな決断だったと思います。
仕事は嫌いではなかったので、もし「まぁいいか」と、周囲に言われるままにズルズルと続けていたら、いまの雀士という仕事にはたどり着いていなかったかもしれません。
結婚したらすぐに子どもができるだろうと思っていたのですが、2年くらいは授からず、その間は家でずっと麻雀の本を読んだり動画を見たりするなど、とにかく麻雀に関わることをしながら過ごしていました。
そんな私を見ていた夫が、「そんなに麻雀が好きなら、これに応募してみたら?」と勧めてくれたのが、インターネットの麻雀番組の生徒役の募集でした。
もともとあまり前に出たいタイプではなかったので迷いましたが、夫に背中を押され、「とりあえず面接だけ行ってみるか」と参加したら、面接に来た人は全員採用されました(笑)。

そこからプロの雀士の方と会ったり、アマチュアの大会に出場したりするようになり、麻雀の対局を経験して、「楽しい!」と思いました。何を賭けるわけでもないけれど、4人が勝つために集中して戦う。自分は何をすべきか、頭をフル回転させる感覚が楽しくてたまらなかったんです。もっと強くなりたい。もっと真剣に競技麻雀をやってみたいと考えるようになりました。

ドラフト指名でMリーガーになる

麻雀にはいくつかの団体があり、その試験を受けて合格したら「プロ雀士」と認められます。私は2014年に日本プロ麻雀協会の13期生としてプロ入りを果たしました。
ただ、当時はプロと言っても、自分でお金を出して対局に参加する形で、勝てば多少の賞金はもらえますが、基本的には麻雀で生活するのは難しい状況でした。お金を稼ぐことが目的ではなく、ただ麻雀が好きで戦っていたのです。

プロになってすぐに妊娠が発覚し、産休・育休も挟みながら、思うように活動できない時期が続きました。
転機となったのは、2018年のMリーグ誕生。Mリーグとは、サイバーエージェントの藤田晋社長が発起人となって作られた、麻雀のプロリーグ戦です。

でも、このときは、まだ実績をあまり上げられていなかったので、「そんなのが始まるんだ」とどこか他人事でした。
ところが、翌2019年に全チーム男女混合が必須のルールに変わったことがきっかけで、現在所属する「U-NEXT Pirates」からドラフト指名をいただきました。事前に企業との面談などはありましたが、自分が選ばれるとは思っていなかったので、名前を呼ばれたときは本当に驚きました。
Mリーグの選手は、プロ野球選手と同様にチームの契約選手として年俸契約を結びます。規模の大きなリーグで戦えることはもちろん、収入が安定するため、家族の協力も仰ぎやすくなるのでMリーガーになれたことはすごく嬉しかったです。

Mリーガーになって周囲からの見られ方が大きく変わりましたし、メディア対応などこれまでにない仕事も増えていきました。
また、Mリーグができたことで、それまでは年配の男性たちがお酒を飲みながら遊ぶ賭け事だったのが、幅広い年代の人が楽しめる知的ゲームというふうに、かなり麻雀のイメージが変わってきていると感じます。麻雀を楽しむ女性や子どもたちも増えました。

最善手が何か、答えがないから面白い

麻雀は雀士が持つ「技術」と、「運」によって勝敗が決まります。その割合は、誰と打つのか、どういうフィールドで打つのかによって変わってくるので一概には言えません。例えば、Mリーグのように、プロ4人で戦う場合、みんな高い技術を持っているので、実力差が少ない分、運の要素が強くなります。しかし、コントロールできない運の要素もある。その中で、1パーセントでも勝率が高くなる選択は何かを私たちプロは追求しています。

運を味方につけるために、やっていることはいろいろあります。例えば水回りの掃除。もともとまめに掃除をするタイプではないのですが、対局前になると洗面台や台所やお風呂がピカピカになるので、プロ雀士になって良かったなと思います(笑)。

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その瞬間、勝つために何が最善かを常に考える


麻雀は、対戦相手3人の動きや牌など不確定な要素が多く、その中で3人が必ずしも最善手を打つとは限りません。だから、自分自身の最善手も決まっていない。「これが最善である」という答えがないので、自分自身の軸をもとに選択するしかありません。そのため、メンタルが弱いと「この選択で大きな失点をしてしまったらどうしよう」「見ている人にいろいろ言われたらどうしよう」などと余計なことを考えて、自分の軸がブレてしまいます。Mリーグのように注目度の高い対局になればなるほど、メンタルの強さが問われます。

私自身はもともと感情の起伏が大きい方ではないのですが、子どもたちの存在によって精神の安定を保てていると感じます。2人の子どもが元気だったら、最低限の幸せは担保されている。その感覚があるために、心が平穏でいられるんです。

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Mリーグの試合の様子。将棋と違い、麻雀は不確定な要素が多く最善手が決まっていない(©AbemaTV, Inc./©Mリーグ)


Mリーガーになって5年、最初は強かったプレッシャーや緊張感が、だんだんほどよいものになってきました。Mリーグにはさまざまなカラーを持つチームがありますが、その中でもPiratesは「自分はこうしたい」「これが好き」という感情ではなく、「勝つためにどうすればいいか」を最優先で考えるチームです。その軸が4人に共通していることがPiratesの強さだと思います。
2024年5月に閉幕した2023-24シーズンは優勝という最高の結果を残すことができました。でも、ここで満足せず、もっと上を目指していきたい。Mリーグではまだ2年連続で優勝したチームはありません。来シーズンは史上初の連覇を目指します。

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PiratesはMリーグ2023-24シーズンで、2019-20シーズンに続き2度目の優勝を果たした(©2024 U-NEXT Pirates)


いまでも私の心の根底には、「麻雀が好き」という気持ちがあります。この先、年齢を重ねてプロとして麻雀が打てなくなったとしても、趣味や見る雀として、麻雀とはずっと離れずにいたいなと思っています。

(文/尾越まり恵、表記のない写真すべて/齋藤海月)

瑞原明奈(みずはら・あきな)
プロ雀士
1986年、長崎県佐世保市生まれ。早稲田大学在学中に、CSチャンネルではじめて麻雀の対局を見て魅了される。新卒で通信会社に勤務し、結婚を機に退職。2012年、インターネットの麻雀番組に生徒役として出演。2014年、日本プロ麻雀協会の13期生としてプロ入りし、2017年に最高位戦日本プロ麻雀協会に移籍。2019年にU-NEXT Piratesからドラフト指名を受けMリーガーとなる。
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