いまにつながる34歳の決断を、真由美さんはどう振り返るのか。そして、次世代の女性たちに伝えたいメッセージとは?
性の問題がタブー視されていた時代
悩みに寄り添う書籍を数多く出版
エムネットジャパンの設立からおよそ10年。真由美さんは会社を売却し、第2のライフシフトを実行する。理由は、「ITが苦手なのに、IT系の仕事が9割になってしまったから」と真由美さん。
「事業計画を専門家と一緒に考えても、胸が踊らないんです。モチベーションが下がると売り上げにも影響する。社員の士気も落ちる。某大手通信会社の仕事を受注したときに、どうしてもこれは主婦には普及しないと直感し、土下座して降りたことがありました。『私だったらコレ、使わないな』と。このときは、激しく怒られて悔し涙を流しました。涙の経験は覚えている限り、この案件だけ。後日談として、この案件は私の直感通り、主婦層には広まらずフェイドアウトしていきました」
会社を売却後、第1回でも紹介した、女性たちの性のお悩みに答える恋人・夫婦仲相談所を設立した。
真由美さんはママだけでなく、幅広い層の女性の悩みを聞き、解決策を発信するために、積極的に執筆活動にも取り組んだ。
「当時の夢は『本を書きたい。自分の本で、悩んでいる主婦たちに改善策を伝えたい』というもの。強烈な夢が湧くと、ギアがギュルルン! と上がるんです。次は絶対、作家になるんだって。これがライフシフトのエネルギーです」
デビュー作は、主婦1609人に性生活の調査をしてまとめたノンフィクション『となりの寝室』(講談社)。「会社経営時代に培ったマーケティングリサーチ能力を発揮できた」と真由美さんは語る。
「『帯は有名作家さんに書いてもらいたい』という夢を叶えて、室井佑月さんにお願いできました。NHKの朝の情報番組『あさイチ!』のセックスレス特集で室井さんと控室でお会いしたときに、『すんごい面白かった!』と褒めてもらえたんですよ。あのときは嬉しかった!」
『となりの寝室』は泌尿器科の学会で真由美さんが講演するたびに、会場で飛ぶように売れたという。
「医師たちにED(勃起障害)が原因のセックスレスでつらいのは男性側じゃなく、パートナーの女性側だと伝えられたのは良かったです。さらに、『バイアグラの販促をしたい』という夢も叶えました。ファイザーの広報部から依頼を受けて、EDに悩む男性向けの映像CDを制作したり、短編映画の監修をしたり、TBSの生島ヒロシさん司会の健康番組でEDを語ったり。全国の泌尿器科クリニックの院長と対談するツアーも決行し、泌尿器科ネットワークを北海道から九州に広めました。
地元のクリニックの医師勉強会にも呼んでいただき、岩手県の花巻市や高知県の四万十市など、いろいろな場所を訪問しました。バイアグラ、レビトラ、シアリス(いずれも勃起障害の治療薬)が私の人生に彩りを与えてくれたことは間違いありません。自分で勝手に“EDアンバサダー”と名乗っていたんですけど、バイアグラの担当者さんから、”いまや正真正銘EDアンバサダーですね”と言って笑われました」
2008年に真由美さんのEDに関する書籍の編集を担当した、扶桑社の書籍・ムック第1編集部編集長の秋葉俊二さんは、真由美さんの印象を「並みのパワフルではなくて、元気が有り余っている感じだった」と振り返る。
「昼間の打ち合わせでしたが、初対面でセックスとED(勃起障害)を連呼していました(笑)。これは真由美さんのキャラクターだと思いますが、まったくいやらしさがなく、明るく真面目に性の問題に取り組まれている印象でしたね。当時はまだ、セックスレスやEDは口に出すのはタブー視されていた時代です。人に相談することもできず、見えないところで問題になっていた。そこに切り込んでいる恋人・夫婦仲相談所は、かなり画期的だなと思いました」(秋葉さん)
真由美さんと秋葉さんは、二人三脚で何冊かの本を出版した。著者と編集者はチームワークがなければいい本は作れない。
「真由美さんご自身が本を通して伝えたいことが明確にありましたし、いい本にしたいという思いが強かったんです。著者がそういったテンションだと、編集者も頑張らなきゃ、と思いますよね。本当にいいチームワークで、貴重な経験をさせていただいたなと思っています」(秋葉さん)
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