保岡真仁

鹿児島空港から約70分。奄美群島のほぼ中央に位置する離島、徳之島。この小さな島で、私は生まれ育ちました。エメラルドグリーンの海、サンゴ礁でできた鍾乳洞、樹齢300年の古木が作り出す自然のトンネル。そんな絶景との生活を手放し島を出たのは、本土・鹿児島市内への高校進学がきっかけでした。

本土の高校を受験したのはただの成り行きです。面接試験で「受かったらうちの高校に入学してくれますか」と問われて一言、「いえ、行きません」と即答したほど。地元では島内の高校に進学するのが普通でしたし、そもそも私の家庭に全寮制の私学に通えるほどの経済的余裕はない。
でもどこかで、島を出たいと思っていた。だから数週間後、思いがけず届いた合格通知に書き添えられた「学費全額免除の特待生」という文字を読んだとき、確かに心躍ったのです。

――島を出られる。

合格通知を握りしめた自分は、まだ見ぬ地への期待に満ちあふれていました。

実際、その後の人生で渡り歩いた街は、高校在学中に住んだ鹿児島の街も、現在住んでいる関東の街も、どこも故郷に似て美しく、閉鎖的で、平凡な街でした。これでよかったんだろうかと悩んだ日もあるけれど、外から眺める機会がなければ、わかりえなかった価値がある。出会えなかった人がいる。妻、娘、音楽仲間etc……。そんな大切な人々に出会えたのは、すべて島を出ることを決めたから。
世界自然遺産に登録された故郷のニュースを聞きながら、あの日の決断を誇れる自分に気がつきました。

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