樋口実沙

2018年の西日本豪雨を機に、11年務めたアパレルブランド・ケイト・スペード ニューヨークを退職し、アジア・太平洋地域で活動する社会起業家の支援を行うNGOに転職することを決めました。

私の故郷は広島県安芸郡熊野町。小学校に入るまではかやぶき屋根にぼっとん便所、五右衛門風呂が現役だった、およそ現代的とは言いがたい農村部に生まれ育ちました。自然の中で遊ぶのが好きで、家の前に流れる川でホタルを捕まえたり魚を獲ったりして過ごしていた幼少期。川に流れ込む生活水で自然を汚している、ということは何となく意識しながらも、漠然とそういったものは誰かがどこかで対策を練っていて、そのうち解決してくれるんだろうと考えていました。

絵や映像が好きだった私は高校卒業後、広島市立大学の芸術学部へ進学。映像・デザインの勉強をしました。大学4年生のときインターンをしていたデザイン会社で手伝った展示ブースの企画・運営の仕事が評価されてケイト・スペード ニューヨークから声がかかり、入社を決めました。

はじめての東京暮らしは緊張しましたが、店頭での販売経験を経て着任したマーケティングの仕事は面白く、入社2年目でドコモとコラボした携帯のコンテンツデザイン に携わるなど、充実した生活を送りました。アパレル業界で働くならずっとケイト・スペードにいたい。そんな気持ちが大きく揺らいだのが、2018年に発生した西日本豪雨だったのです。

実は西日本豪雨の4年前にも地元・広島を豪雨が襲い、大学時代の先輩が土砂災害の直撃を受けて亡くなりました。そして2018年に地元が再び豪雨に見舞われたとき、私は東京で「国境なきカリー団」というカレーのイベントを運営していました。この頃からハマっていた香辛料の良さを知ってもらうべく、さまざまな国のカレーを楽しみ、売り上げの一部を国境なき医師団に寄付する、という活動でしたが、母親からの電話を受けて頭が真っ白に。大災害が地元を襲っていても、道路が寸断されており帰郷することはかないません。何もできず、遠くから惨状を見守ることしかできませんでした。

この短期間にこれほどの大規模災害が何度も地元を襲うという現実があまりにもショッキングで、これまで「グローバルなビジネスのことばかりを考えてきたけれど、もっと注目すべきことがあるのでは」と、地球環境、とりわけ気候変動に注目するようになりました。折しも、立ち上げから携わってきたブランドのデザイナー交代が決定。「ここでできることは一通り学ぶことができた」と退職を決意しました。

転職先はソーシャルビジネスを展開する企業・団体がいいと考えて探していたところ、オセアニアのマーシャル諸島の気候変動アクティビストなど、社会・環境課題の第一線で課題解決に取り組むチェンジメーカーを支援していた一般社団法人Earth Companyと出会いました。「マーケティング、イベント運営、クリエイティブの経験があること」というキャリアにも合致し、事業内容にも強く興味を惹かれて転職を決意。現在は、それらのイベントの企画運営から広報までを担いマーケティング担当として従事しています。

Earth Companyを通じて自分の大切なものを守りたい。私自身がプライベートで大切にしている香辛料の世界でも、環境問題の影響は深刻です。世界のみんなが使っているものを守る活動は、気候変動をはじめとする環境問題に取り組むことにつながります。去年1年間はスパイスの流通、生産者を調査しに行きましたが、これらの知見を生かして自分でも事業を立ち上げたい。Earth Companyとうまくシナジーを生みながら「大切なものを守る」活動により一層力を入れていきたいと考えています。


一般社団法人Earth Company ホームページ
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