佳奈さんショート

「エンジニアこそ天職」、30代前半の私はそう思っていました。しかし度重なる残業や徹夜によりプライベートを犠牲にし、心身が疲弊して身体を壊しました。休職中、これまでの人生を振り返ったとき、小説家を志していた昔の自分を思い出しました。

深夜、独りぼっちの部屋でパソコンに向かい、「結婚に失敗した」「許されない恋に堕ちた」過去を、懺悔するような気持ちで綴りました。そして書いたものを商業媒体で発表する機会を得て「作家を生業にする」決断をしました。

人並み以上に提供できる情報も知識も浅薄な私ですが、「恋」だけは人生を賭けるほど没頭してきた自負がありました。己の感情と相手との関係に翻弄した苦しみも、このまま死んでもいいと思うほどの幸福と快楽も、すべての経験が作家にとっては糧となるのです。

「男と女」「愛と性」という、一生興味の尽きないテーマを書き続けて16年。作家になってからも波瀾万丈な恋模様はいくつか生じましたが、今は辛い失恋さえも執筆のネタとして昇華できます。

恋多き私にとって「作家こそが天職」だと、今は思います。作家には定年もないので、エンジニア業のかたわら、ライフワークとして書き続けます。


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