助宗さんショート

28歳のとき、当時勤めていたメガネ販売会社を辞め、専業主夫になりました。
交際中だった彼女の妊娠がわかったのがその1年前。すぐに結婚して、この先の生活について夫婦で話し合いました。

「私は、仕事を辞めるつもりはない」
大手出版社で漫画編集者として働く妻の意見は明確でした。

僕自身は、メガネが好きで就職した会社でしたし、接客も楽しかった。でも、休みは平日で融通が利かない。収入面でも妻が働いた方が家計は潤う。もちろん、保育園に預けて共働きをする選択肢もありました。でも、僕は母親が専業主婦で、帰ったら家にいるのが当たり前の環境で育ったため、自分の子どもも同じように育てたいと思ったのです。

とはいえ、結婚するまで実家暮らしだったので、家事も育児も最初は手探りです。掃除と洗濯は好きだけど、料理は苦手。料理本に書いてある「ひとつまみ」とか「一振り」って何だよ?!

男性は授乳ができないので、出かけるときはお湯と粉ミルクを持ち歩きました。男性用トイレには、おむつ台もおむつを捨てるゴミ箱もない場合がほとんど。寒い中、外でおむつを替えたこともあります。

30歳くらいになると、同期が出世して、マネージャーになった、給料が上がったという話が耳に入るようになりました。
「あれ、俺は何をやっているんだろう……」
そう思うこともありましたし、彼らのことがうらやましいと思わなかったかというと嘘になります。でも、自分は自分だとすぐに切り替えました。

よく聞かれるのは金銭面ですが、主夫になってすぐに妻が言ってくれた言葉があります。
「私の給料は、家族みんなで稼いだお金だから」
最初は気を遣って言ってくれているのかな? と思いましたが、どうやら本気らしいと分かってからは、自分の好きなものは自由に買いますし、妻も自由に好きなアイドルのコンサートに行っています。

息子は今年、10歳になりました。土日は一緒に野球をしています。平日はそのグラウンド予約のために走り回る毎日です。子どもが成長しても、主夫業は忙しい。

息子がはじめて言葉を話した日。はじめて立った日。成長の過程をすべて、僕は近くで見ることができました。僕にとってそれは何にも代えがたい感動の瞬間でした。バリバリ働き出世して収入を得る人生の楽しみ方ももちろんあります。でも、子どもの成長を近くで見守り、一緒に勉強して野球をする。それもまた楽しい人生だと、28歳の決断を振り返っていま、僕はそう思っています。

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