前田聰一郎

「ふくいの伝統的民家」に認定されている祖父の実家兼本社社屋を改修し、「コワーキングスペース」に再生するプロジェクトを実現しました。

祖父の家は、旧北陸街道に面した江戸時代末期の古民家で、2006年に商家の面影を残す町屋として福井県の「ふくいの伝統的民家」に認定されました。でも私が小学校6年生の冬休みに神戸から祖父の実家で暮らすことになったときは、その価値もわからずとても嫌な思いをしたことを覚えています。家は古いし、テレビの映るチャンネル数も少なく、大好きなピザ屋さんもない。おまけに校則が厳しく髪型は丸刈り。そんなわけで神戸にキャンパスのある甲南大学に進学が決まったときはとても喜んだものでしたが、学生生活はうまくいかず、留年の末に何とか卒業できた大学生活は入学時に思い描いたのとはほど遠いものでした。

就職は福井県内に戻り、商社に就職。ところがそこでもうまくいかず、その後も、広告会社、保険会社、アパレル、ディーラー、繊維会社といろんな業界を渡り歩きました。20代のうちに祖父も亡くなり、母はアルツハイマー型認知症に。脳が機能しなくなるだけで人格が変わってしまうことを目の当たりにし、幸せや人生について考えるようにもなっていました。次第に転職活動もうまくいかなくなり、30代に突入していよいよ八方塞がりに。そこで2016年、35歳のとき40万円という心もとない貯金で創業を決意。そこからは広告代理店時代の経験も生かして名刺やチラシ作成、WEB制作などを手掛けていきました。

2018年、得意先の勧めで9日間のデンマーク研修へ。デンマークの福祉について調査することが目的でしたが、電子カルテや個人情報の取り扱いなど、デンマークはあらゆる面でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる国であることに驚き、デンマークの人たちの幸せの捉え方の違いを肌で感じて「これを学ぶために自分は生きていたのだ」と思えるほどの衝撃を受けました。

――人以上に失敗してきた自分。何のためにいるのだろうと思ってきた自分は、枠組みにとらわれない自由な繋がり方、新しい生き方を伝えるために生きてきたんだ。

不意に使命感が湧き上がってきました。帰国して見てみると実家の家屋はとても風流で、補助金などを活用すればこの素晴らしい建築物を新しい働き方の拠点にできることを強く実感。プレゼンの声に力強さが宿り、これまでになく言葉があふれてくるのを感じました。

そうして実現したのが、2023年8月25日にグランドオープンしたコワーキングスペース「Idea Sync(アイデアシンク)」です。1階はコワーキングスペースで2階はシェアオフィス。施設利用者には場所に囚われず各地で活躍するクリエイターもいます。地域と働く場所の調和(Sync)を目指し、ここが県内外を結ぶ交流拠点となることを願っています。


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