33歳のとき、夫の転勤に同行する形でロンドンに移住しました。国立大学では有数の、書道科がある大学の大学院を修了し、高校やカルチャーセンターで書道の講師をするほか、展覧会に出品して受賞。20代で積み重ねた下積みがようやく実り、手ごたえを感じ始めていたときでした。
そのときは自然と、結婚したのだから夫について行こう、と思いました。それでも、これまで必死に積み重ねたキャリアはゼロになってしまう。自分で決めたことなので、結婚のせいにはしたくない。そう思いながらも、大きな喪失感と不安に襲われました。
到着したロンドンの空は灰色でした。新天地で生活しながら、時折涙がこぼれました。でも、せっかくこれまで書道を続けてきたのだからと私は活動の場を探しました。最初は日本人が主催するイベントで来場者の名前を書いたり、ボランティアで書を書いたり。そこで、「円相(えんそう)」※と出会います。ボート競技の世界レガッタ協会(World Rowing)の依頼で、円相によるロゴを制作、そのロゴがオリンピック公式ロゴとして採用されたのです。これをきっかけに、少しずつ講演やデモンストレーションのオファーが増えていきました。
2011年の東日本大震災のときには、ロンドンから日本を応援しようとボランティアで円相を書くイベントを開催。漢字を書くのは難しくても、円なら書けます。ロンドンの子どもたちが200人もの行列をつくり円相を書いてくれました。書を通じて日本の想いを伝えることができた。書道ってものすごい可能性を秘めている! と実感しました。
ロンドンで5年暮らした後、カナダのケベック州への移住を経て、2018 年に帰国。今は海外の人を対象にしてオンライン講座を開いたり、海外の人が楽しく学べる「書道ひらがなレッスン」のテキストをケベックの人たちと共同制作したりしています。
必死に守ってきたもの、自分のすべてだと思っていたものでも、手放すことで新たな世界が待っていました。一度両手を開いて空にしてみると、自由で軽くなった手の中に、また新しいものをつかめる余裕が出てくるのだと思います。
※円相:禅における書画のひとつで、図形の丸(円形)を一筆で描いたもの。悟りや真理の象徴で書く人の心を映し出すものとされる。
そのときは自然と、結婚したのだから夫について行こう、と思いました。それでも、これまで必死に積み重ねたキャリアはゼロになってしまう。自分で決めたことなので、結婚のせいにはしたくない。そう思いながらも、大きな喪失感と不安に襲われました。
到着したロンドンの空は灰色でした。新天地で生活しながら、時折涙がこぼれました。でも、せっかくこれまで書道を続けてきたのだからと私は活動の場を探しました。最初は日本人が主催するイベントで来場者の名前を書いたり、ボランティアで書を書いたり。そこで、「円相(えんそう)」※と出会います。ボート競技の世界レガッタ協会(World Rowing)の依頼で、円相によるロゴを制作、そのロゴがオリンピック公式ロゴとして採用されたのです。これをきっかけに、少しずつ講演やデモンストレーションのオファーが増えていきました。
2011年の東日本大震災のときには、ロンドンから日本を応援しようとボランティアで円相を書くイベントを開催。漢字を書くのは難しくても、円なら書けます。ロンドンの子どもたちが200人もの行列をつくり円相を書いてくれました。書を通じて日本の想いを伝えることができた。書道ってものすごい可能性を秘めている! と実感しました。
ロンドンで5年暮らした後、カナダのケベック州への移住を経て、2018 年に帰国。今は海外の人を対象にしてオンライン講座を開いたり、海外の人が楽しく学べる「書道ひらがなレッスン」のテキストをケベックの人たちと共同制作したりしています。
必死に守ってきたもの、自分のすべてだと思っていたものでも、手放すことで新たな世界が待っていました。一度両手を開いて空にしてみると、自由で軽くなった手の中に、また新しいものをつかめる余裕が出てくるのだと思います。
※円相:禅における書画のひとつで、図形の丸(円形)を一筆で描いたもの。悟りや真理の象徴で書く人の心を映し出すものとされる。
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