津野麻亜耶さん

株式会社バルセロナ 取締役CHO 津野麻亜耶

20代、東京・表参道でブランディング会社のコンサルタントとして働いていた津野麻亜耶(まあや)さんは、2019年4月、北海道札幌市でニュークラブを運営する株式会社バルセロナへの転職を決意した。今は自宅のある東京と、職場のある札幌の2拠点生活をしている。プライベートでは間もなく1歳になる子どもを持つ母親でもある。なぜ、縁もゆかりもない札幌の会社に転職したのか? そこにはニュークラブで働く女性に対する熱い思いがあった。第1回では津野麻亜耶さんの人物像を紐解いていく。

ニュークラブの人事として採用・教育を一手に担う

 札幌・すすきので5店舗のニュークラブを運営する株式会社バルセロナの取締役CHO(Chief Human Officer)。それが津野麻亜耶さんの現在の肩書きだ。人事部門のトップとして、人材採用から教育、組織開発全般を担っている。「ニュークラブ」は本州ではあまり馴染みのない言葉かもしれないが、いわゆる本州でいう「キャバクラ」のことを札幌では「ニュークラブ」と呼ぶことが多い。

 「札幌で『キャバクラ』というと、セクシー系の接待をするお店を指すため、区別して『ニュークラブ』と呼んでいます。キャバクラなので、もちろん性的な接待はありません。女性キャストがお客様のテーブルに一緒に座り、お話をしてお酒を注ぐのがニュークラブです」

 バルセロナが運営するニュークラブはビルのワンフロアすべてを使った大型店であることが特徴で、店舗の敷地面積は100坪ほど、在籍するキャストは店舗あたり70~80人。グループ全体では450人にのぼる。平均客単価は1卓(グループ)あたり約5万円で、この価格は「東京の同規模のお店と比べるとかなりリーズナブル」と麻亜耶さんは説明する。
利用客の半分は札幌在住で、残りは東京や大阪などから出張で札幌に来た人たちだ。スポーツ選手が遠征時に利用することもあるという。

 バルセロナの社員は70人ほどで、その多くが「黒服」と呼ばれる、ニュークラブのキャストをマネジメントするスタッフたちだ。同社ではこのスタッフを「クルー」と呼ぶ。「黒服」というと男性をイメージしがちだが、バルセロナでは2割が女性だ。

 「性別に関係なく、自分自身が持つ個性をうまく生かしてマネジメントしているクルーは、キャストの個性を生かし成長させることができます」と麻亜耶さんは言う。

 バルセロナが運営するニュークラブ「桃李(とうり)」でクルーとして働く内野真子さんは、麻亜耶さんが採用を担当した、2022年の新入社員だ。

 「麻亜耶さんと初めて会ったのは、インターンシップのときで、その後、面接や研修で関わるようになりました。印象的だったのは、入社直後の新人研修で、全員が本音を話す場面があって、同期の1人が話しながら泣いてしまったのですが、そのときに麻亜耶さんも一緒に泣いていたんです。まだ出会って間もないタイミングで、こんなに表に感情を出してくださったことに驚きました。麻亜耶さんはとにかくカッコいい、憧れの女性。それに尽きます」(内野さん)

ニュークラブ「桃李」のクルー・内野真子さん(写真左)。麻亜耶さんが講師を務める研修などで会うことが多い。「こんなに臨機応変に仕事ができる人っているんだな!」というのが、内野さんから見た麻亜耶さんの第一印象(内野さん)


30歳の決断、コンサルタントから現場の人事へ

 麻亜耶さんがバルセロナに転職したのは30歳のとき。そもそもバルセロナは、麻亜耶さんが東京・表参道でブランディングコンサルタントをしていたときのクライアントだ。

 「バルセロナが大事にしていることを言語化して、理念を一緒に作らせていただいたんです。ブランディングとして広告戦略やビジョン作成に携わっているうちに、根本的な経営課題の解決に一緒に携わりたいと考えるようになりました。
 キャバクラは目に見える商品があるわけではありません。キャストの魅力で売り上げを作っていく。人をどう育てたかが会社の業績に直結する分かりやすいビジネスなので、人に携わる仕事のスタートラインとして面白いなと思いました」

 ニュークラブで働く女性たちは、どうしても世の中からマイナスのイメージを持たれがちだ。その常識を覆し、変革を起こそうとしているバルセロナのビジョンにも共感した。
 「私が入社した当時は売り上げ10億円規模でしたが、それを100億、300億円にまで成長させることができたら、自分自身が胸を張ってこの売り上げを人材面から作り出すことができたと言えるのではないか。この先の名刺代わりとなる可能性を秘めた仕事だと感じました」

 とはいえ、生活拠点は東京で、結婚を控えたパートナーもいた。すぐに札幌のバルセロナに入社する決断したわけではなく、最初は2年間、出向のような形で携わり、最終的に転職を決断したのは2019年、30歳のときだった。

 「前職のブランディング会社の社長にはとてもかわいがってもらい、期待もしていただいていたので、最初は転職は考えていなかったんです。でも、4年くらいバルセロナの事業に携わる中で、あるときふと、“降りて来た”んですよね。バルセロナで働こう、と。決めてからは早かったです」

 バルセロナの波戸崎崇社長は、そんな麻亜耶さんの第一印象をこう振り返る。
 「最初に会ったときの衝撃がすごかったんですよね。一緒に理念を作る打ち合わせで、彼女が司会をしながら議事録をとっていたんです。僕らの会社のコアな部分となる大事な質問をしながら、議事録をとりつつしっかり会議を回していく。『なんだこれは! めちゃくちゃスペック高いな!』と驚きました」

 最初に一緒に働かないか、と誘ったのは波戸崎社長だった。
 「結婚を控えていることは知っていたので、強くは言えませんでしたが、麻亜耶さんはバルセロナの社風が合うだろうな、と思ったんです。
 でも、出向の制度もないのに、前職の社長に直談判してバルセロナに出向してきたときには驚きましたね。最終的には、麻亜耶さんの婚約者と3人で食事をしているときに、婚約者に向かって普通の会話の中で『来年からずっと札幌で働くことに決めたから』と言っているのを、僕が聞くという(笑)。あれ、給料の話もしてないけど、みたいな(笑)。

 人事は未経験ながら、彼女が新卒採用を担当し始めた最初の年に、採用者数がいきなり前年の2人から9人にまで増えたんです。それを見て、テクニックよりも、きちんとやり切るパワーを持っている人に任せたほうが結果は出る、ノウハウは後からついてくるものだなと思いました」(波戸崎社長)

麻亜耶さんが働くバルセロナの波戸崎崇社長。麻亜耶さんは「0から1を生み出すことができる人。そしてやり切るパワーがある」と話す。


人生は自分の力でつくっていけることを証明したい

 そもそも、麻亜耶さんがニュークラブの業界にここまで強くコミットしたのは、学生時代、学費を稼ぐためにキャバクラで働いていた彼女自身の経験も大きく影響している。

 「私は20代前半でしたが、同じお店で働くキャストの子が隣で話していたことを、今でもはっきり覚えています。19歳くらいの子で、『いま彼氏に暴力を振るわれていてやばい。だけど、自分も彼も親に捨てられているから一緒にいるしかないんだよね』と言っていたんです。
 19歳で、未来をいかようにもつくれる子が、すでに自分の人生を『仕方ない』と諦めてしまっていることが悔しくて悲しくて仕方なかった。キャバクラは、家庭環境が恵まれなかったり、自分の人生を諦めたりしている女性が集まりやすい業界だと思います。
 だけど、私は自分の人生を自分の力でつくっていけるんだと証明する人生を送りたいし、それを誰かに伝えられたらとずっと思っていました。
 だから、その女の子の存在は、ずっと自分の宿題として頭の片隅に残っていました。自分自身も過去に親子関係で悩んできたことがあります。バルセロナで人に携わる仕事をして、自分の人生を自分の力で選んでいけるような女性たちを生み出すことは巡り巡って自分の人生を使ってやるべき使命のようなものだと感じたんです」

 過去・現在・未来。自分の人生の道筋が見えた瞬間を、麻亜耶さんは「降ってきた」と表現したのだ。

自身も決して恵まれた家庭環境ではなかった。だからこそ、キャストやクルーの可能性を信じ、1人1人の人生に誠実に向き合い続ける(「桃李」で撮影)


 「ニュークラブはお酒の場でもあり、お行儀の良いお客様ばかりではありません。でも、ナンバーワンになるようなキャストを見ていると、女の部分を売りにするよりは、お客様と人間的な信頼関係を結ぶことによって売り上げを獲得しています。
 口説かれてボディタッチされるようなキャストになるのか、お客様から悩みを相談されたり精神的に頼りにされたり、あなたに会うと元気になるよと言ってもらえたりするキャストになるのか。そこには自分自身がどうお客様とどう接しているかが如実に反映されます。結局、キャスト1人1人の仕事の向き合い方次第なんです。会話をして、『この子はちょっと違うな』と思ったら、簡単には口説けませんから。本質的な防御はそういった点にあるのかなと思ったりします」

 麻亜耶さんが「きれいで華やかなだけの世界ではない」と話すように、プレッシャーやストレスが大きい仕事であることは事実。どうしても、メンタルを壊してしまうキャストもいる。そうならないためにも「なぜいまここで働いているのか、ビジョンを持つことが大事だ」と麻亜耶さんは考えている。

 「お店を卒業した後にインフルエンサーとして名を成していくのもいいですし、お金を貯めてエステサロンをオープンしてもいい。『自分はこのために頑張っているんだ』という姿を見せていくと、応援してくれる人が増えていきます」

 女性たちに、自らの力で人生を切り開いていってほしい。そんな思いで人事の仕事に打ち込む麻亜耶さん。最近では「キャリアアップするならバルセロナだ」と考えて移籍してくる女性も増えているという。

 次回、第2回では、麻亜耶さんの生い立ちと、結婚して一児の母でもある彼女のプライベートについても紹介していく。

(文・尾越まり恵)
津野麻亜耶さんプロフィール
株式会社バルセロナ 取締役CHO(最高人事責任者)

1988年、東京都生まれ。小学校高学年から演劇に打ち込み、女優を目指す。高校中退後、高卒認定試験を受けて、早稲田大学文化構想学部入学。新卒でブランドコンサルティング会社に就職。2019年、バルセロナに入社。


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