市川さんショート

20代前半、東京・世田谷区に開業したカフェバーを2年弱で閉めることを決めました。それまで自信満々に生きてきた僕にとって、これは人格を変えるほどの大きな挫折体験でした。

大学を卒業し、大手旅行会社のグループ企業に就職しましたが、1年足らずで退職。当時の僕はとにかく自信過剰でした。なんとなく「カッコいいから」という理由で、銀座でバーテンダーのアルバイトをして、そこそこ人気が出ていたので、「これならいける!」と安易な気持ちで開業したのです。

いま思えば、失敗する要素しかない開業でした。世田谷区で18席、家賃は月18万円、アルバイトスタッフを3人雇用と、固定費が高かった。ランチのメインメニューはカレーでしたが、お客さんに「ピザが食べたい」と言われればピザを作る。明確なコンセプトもなかった。あの頃の自分に言いたい。「まずはターゲット顧客を決め、提供価値を定めること。成功モデルを決めるために、小さく始めて大きく育てろ!」と。

月100万円の損益分岐点に届かない日が続きました。アルバイトスタッフの給料を払うと、自分の収入はゼロ。1日に1人もお客さんが来ない日の店の景色は、今でも鮮明に覚えています。バイトの子に帰ってもらい、がらんとしたお店に1人。社会から自分は存在してはいけないと言われているような感覚でした。資金が底をついたのと同時に心が折れ、お店を閉めることを決めました。

この挫折は、僕を謙虚にしてくれました。いくつかの会社を経て、今はベンチャー企業で事業を作り育てていくことに地道に向き合っています。あのとき失敗していなかったら、独りよがりの性格のまま生きていたでしょう。当時はとてもみじめで、プライドはズタズタになったけれど、いまとなっては一段成長するために必要な修羅場体験だったなと思います。

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