前畑さんショート

2020年、「マルチポテンシャライト」という概念と出会ったのをきっかけに、1つの仕事に絞らない働き方を決断しました。

ピアノと歌を武器に東京藝術大学の音楽学部に進学。当時創設3年目だった音楽環境創造科では「やりたいことを何でもやっていい」と言われ、ガラス工芸に熱中しました。
子どもの頃から何でも器用にできて、ある程度のところまで上達すると興味を失ってしまうことの繰り返し。1つのことを極められず、どれも中途半端。器用貧乏で飽き性な自分にずっとコンプレックスを抱いていました。

大学時代、アメリカの企業に私の作品に興味を持ってもらい、「アメリカでもっと美術を勉強しないか」と誘われたのですが、「私にはそのスキルはない」と思って断って、卒業後は逃げるように地元福岡に帰りました。

接客業に興味があったので、福岡では居酒屋に入社しました。毎日深夜まで働き忙しかったけれど、接客は楽しく「これが自分の天職だ!」と感じました。おそらく人生ではじめて、1つのことに打ち込んだ期間でした。
28歳で働いていた居酒屋のオーナーと結婚。このまま仕事も家庭もうまくいくと思っていたのですが、5年ほど経ち、夫との関係性が悪化。同時に接客業1つに絞っている生活が窮屈で苦しくなっていきました。

32歳で離婚を決意し、私は無職のシングルマザーになりました。父親が経営する法律事務所で働きながら、フードコーディネーター、社会保険労務士、簿記、などさまざまな資格に手を出して自己投資するものの、途中で挫折してしまう。スキルが身に着かない自分にどんどん焦りが募っていきました。

そんな悩みを知人に話したときに教えてもらったのが、カナダのキャリアコーチのエミリー・ワプニック氏が提唱した「マルチポテンシャライト」という概念です。マルチポテンシャライトとは、1つのスキルを極めるのではなく、さまざまなことに興味を持ち、多くのことをクリエイティブに探究する人のこと。
それを聞いて、「それは私だ!」と大きな衝撃を受けました。
自分はダメだと思っていたけれど、「私だけではなく、同じタイプの人がいるんだ!」とすごく解放されたような感覚になりました。

そこからエミリー・ワプニック氏が書いた本を読み、「マルチポテンシャライト」について勉強すると同時に、自分自身のスキルを棚卸しして徹底的に自己分析をしました。
1人でこの概念を深めていくのは難しいなと感じたので、SNSで募集してみたところ、同じ悩みを持っている人からたくさん反響がありました。そこでオンラインで勉強会を開催。活動をしていると、悩みを抱えた人が途切れずに集まってきたため、2021年7月からスクールを始めました。
スクールの講義は3カ月間で、そこで目指すことは、かつての私のように自分に自信がない人、自分はダメだと思い込んでいる人が自己受容し自信を取り戻すこと。さらに、「マルチポテンシャライト」の人に適している仕事が4パターンに分析されているので、それをもとに自分に合った働き方を探して、これからのキャリアを決めるところまで一緒に考えていきます。

2022年にはスクールの卒業生コミュニティ「hatch Lab.(ハッチラボ)」を開設。スクールの卒業生は60人を超えました。これからはマルチポテンシャライトを一緒に広めてくれる仲間も増やしていきたいと思っています。

1つのことを長く続けられないからといって悲観する必要はありません。いまは多様な人材が求められる時代です。持っているスキルを掛け合わせることで、輝ける場所が必ずあることを伝えていきたいです。

(構成/尾越まり恵)

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