岡井有子

27歳のとき、看護師だった私は歯科医を目指すため、大阪歯科大学へ通うことを決めました。

三姉妹の長女として育ち、近所に住んでいた団地の子どもたちと遊んでいた幼少期。赤ちゃんが生まれたと聞いてはお世話に行って、ミルクを飲ませてあげるなど面倒をみていました。一方で幼少期から副鼻腔炎に悩まされ病院通いが多かったこと、血が苦手ではなかったことなどから医療業界に進みたいと考え、高校卒業後は看護師専門学校へ進学。22歳から外科病棟で勤務を開始しました。

看護師としての勤務に少しずつ慣れ始めていたある日のこと、リハビリの成果が出てきた胃ろうの患者さんが、食事が摂れるようになったことを機にどんどん元気になっていく姿を見て、「食べられるということは人が生きるうえで一番大事な喜びなんだ」と感じるようになりました。例えばほうれん草のおひたしがペースト状になっていたものを口に運んであげても、「緑色のよくわからないものを胃に流し込んでいる」だけで、食べる喜びはありません。見た目や食感など、口や目から入ってくる情報が大脳に刺激を与える割合は大きいものです。また入れ歯についても、清潔に洗浄して口に入れ直してあげることはできても、本当に口に合っているのかどうかはわかりません。うまく噛めない患者さんが、どうしてうまく食べられないのかわからないこともよくありました。

おいしくごはんを食べるだけで人は元気になって笑顔になれるのに――。医療現場でさまざまな疾患に苦しむ人々と出会うたび、口腔領域の健康がいかに重要であるかを感じるようになりました。しかも高齢になってからのケアでは手の施しようがないことも多く、幼少期から口腔領域の健康に介入していくことが大切なのだという思いを強くしていったのです。

そこで、27歳のときに大阪歯科大学への進学を決意。大学以外でも友人に教えてもらうなどしながら小児歯科について学び、大学院では咬合(こうごう)育成の研究に没頭しました。垂直的なかみ合わせを正しくすれば永久歯は正しい場所に生えてきます。歯並びや噛み合わせには姿勢や呼吸、舌の位置などが深く関係しているのです。これらを正常に発育させるため、顎や口腔内の正しい成長を促すのが咬合治療です。

大学院卒業後、担当していた患者さんの継続治療先を探していた際、「RAMPA(ランパ)」という治療法があることを知りました。RAMPAは歯並びの悪さの根本原因となっている「骨のゆがみ」を解消し、歯が自然ときれいに生えてくるように骨格から整え直す矯正法です。

東京の歯科で勤務医として働いたのち、2017年に子どもを中心とした予防・矯正・一般歯科医院として「こどもと女性の歯科クリニック」を立ち上げました。矯正治療では他の矯正法には見向きもせず、RAMPA1本で開業したので開業当時は患者さんがなかなか来ず苦労しましたが、開業後しばらくして通りかかりに来院してくれた方から口コミが広がり、現在までの8年間で約600人を治療することができました。

ワイヤー矯正やマウスピース矯正など、歯列矯正の方法は他にもたくさんあります。しかし上あごの「骨のゆがみ」に着目して調整していくことで、歯並びのみならず、気道や鼻腔の問題などさまざまな健康課題を解決していくことができるのです。子どもたちの症状が改善し、表情や行動が明るくなっていく姿をご家族と共有できることが何よりのやりがい。これからも人々の健康と笑顔のため、RAMPAを広めるとともに研究にも注力していきたいと思っています。


医療法人社団セントワ こどもと女性の歯科クリニック ホームぺージ

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