コラム東京

2年くらい前だったか。東京のど真ん中にある小さなショットバーで、わたしより10歳以上年下の友人たち数人で飲んでいたときのこと。
そのうちの1人が郊外に移住するという話から、東京は人が多くて疲れるよね、人生の最期は地方で暮らしたいよね、みたいな会話の流れになったのだけど。

「そうかなぁ。わたしは東京のネオンの下で眠りたいな」

ふと口にしたわたしの一言に、その場が一瞬凍り付いた。

「か、かっこいいッスね!」みたいな若者たちのフォローが入り、「しまった!」と思ったときには遅かった。だから「なんかバブルの匂いがする」とか言われるんだよ、わたし(実際には、ロスジェネ世代)。

だけど、やっぱり、わたしは東京という街が好きなんです。
遡れば中学時代、福山雅治さんのオールナイトニッポンを聞きながら、「いつか彼が夢見た東京という街にわたしも行くんだ」と心に誓った。
当時は、地元の彼女と別れて東京で夢を追う男の哀愁を歌った歌がはやっていて(シャ乱Qの「上京物語」とかね)、地方の人にとって東京は、夢を追いかけ片道切符で行く場所だった。

大学を京都で過ごし、一度地元北九州に帰り、リクルートの九州支社で働きながら、27歳のときに転勤で東京へ。
夢に見た東京は、明らかに地方とは違った。とにかく、こんなに全国から人が集まっている場所は、おそらく国内で東京だけだろう。
どれだけ「東京人」っぽく気取っていても、東京は地方出身者の集まりであり、六本木や表参道のキラキラは、東京に憧れた人たちが作り上げたものだ。
15年近く東京で暮らしているけれど、東京で生まれ育ったという人には、数えるほどしか会ったことがない。ちなみに、3世代続けて東京に住んだら、東京人(江戸っ子)認定らしいけど、それこそ、そんな人にはほとんどお目にかからない。

終電前の駅に人があふれ、何なら終電が終わった深夜の街にも人がたくさんいる。いつまでもネオンが消えない、眠らない街。淋しんぼのわたしが吸い寄せられるようにこの街に来たのは必然かもしれない、と思う。

ひとり地方出張は楽しい

一方で、東京に憧れを持つのも、わたしが地方出身者だからであり、東京で暮らしていても、地方とのつながりが切れることはない。東京に来たからこそわかる、地方の良さもある。

わたしは日ごろ中小企業の経営者に取材をすることが多く、月に1~2回は地方出張に行っている。
「帯広行ってきて」「今月は岐阜ね」みたいに、1人で知らない場所に派遣されるので、ひとり地方出張の耐性はかなりついたと思う。

西日本育ちのわたしにとって、特に北陸、東北、北海道は未開の地であり、雪国の雰囲気には行くたびに驚かされる。
東京が晴れていたからとヒールで札幌に行ったら豪雪かつ猛吹雪で身動きがとれなかったこともある(←頭悪い 笑)。
取材先の社長に「いやぁ、昨日までは晴れてたんだけど、すごいときに来たねぇ」などと言われ、日本の縦長さを実感した。※出張のときは、現地の天気を確認しましょう。

コラム東京

北海道の人は、停車線なんて見えなくても運転できるんだぜ(2019年、冬の札幌)


そして、地方に行くと、必ず現地のおいしいものを食べると決めている。
ひとりで飲み屋に行くことになんら抵抗がなくなった。相棒のきしとんは「その土地のお作法がわからないからこわい」と地方をまったく楽しめないらしいけど。何かあっても一期一会、基本はもう二度と会わない人たちだと思うと、怖いものなしじゃない?

地方に行ったら、必ず現地でお金を使うこと

これは、ライフメディアの隠れた行動指針でもある。
さすがに鳥取県で3000円超の蟹丼ランチを食べたときは、きしとんに「え、マジすか?」と呆れられたけどね(笑)。

山形で野生のカモシカに会ったぞ

今年の10月は特に出張が多くて、高知→山形→福岡→大阪と北に西にと移動しまくっていた。

高知は人生初だったのに、なんと24時間365日営業のひろめ市場がたまたまメンテナンスでお休みとのこと。わたし、運悪すぎん? しかも、あいにくの雨模様で桂浜にも行けず。
でも、そんなことでへこたれるわたしではありません。「何としてでもカツオのたたきだけは食べねば」と、ひとり高知の街にくりだし、しっぽりカツオと日本酒を堪能しましたよ。

コラム高知

居酒屋でカツオのタタキと日本酒を堪能。「雨の夜、渋くひとりで日本酒を煽るまりえさん、かっこいいとおもいました」(きしとん)


そして、決断物語では11月に温泉特集を企画し、山形県の蔵王温泉にも行ったのですよ。きしとんが「温泉に行きたい、温泉行きたい、温泉行きたいーーー!」って言うからさ(笑)。
蔵王はスキー場で有名なエリアなので、10月はまだ人が少なく、お店も結構閉まっていて、東京の喧騒からたった2~3時間で時空が歪むような感覚になった。
「いやー、水曜日は休みのお店が多いんですよ」とのこと。そうなんすか?

そんな蔵王で2人に決断を聞きました。読んでくれましたか?

『蔵王温泉に日本初の温泉コーデショップをつくる!』竹直也 Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂 オーナー/株式会社LABEL LINK 代表取締役

『カフェに「ツリーハウス」を作り、蔵王温泉を盛り上げたい!』田中蓮人 東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科


取材を終え、東京に帰ろうと蔵王のバスターミナルに向かおうとしたら、なんと、道端に野生のカモシカの親子が!
まさに、ジブリの世界。野生の動物なんてほとんど会ったことがないから怖くなって、近くにいたオジサンに「大丈夫ですか? 襲ってこないですか?」と聞くと、おじさんたちも「いやーわからん」と言う。心配で動けず右往左往。そうしている間にも、バスの時間が近づいている!

みんなであわあわしていたら、カモシカたちがすっといなくなって、無事にバスの時間に間に合いました。あとで調べてみると、カモシカはおとなしい動物なので、人を襲うことはないとのこと。
なんだよ、オジサンたち!
しかも、カモシカは希少で、かつ縁起のよい動物らしい。もっとちゃんと拝めばよかったよ。

コラムかもしか

カモシカの親子。刺激しないように遠くから(撮影:きしとん)


それぞれの地方に、それぞれの空気がある。それぞれの暮らしがあり、そこで生きる人たちがいる。東京とは全然違う時間の流れがあって、実際に足を踏み入れ、その土地の空気と人に触れることがとても大事だと思う。
当たり前だけど、自分がいま生きている世界が唯一ではないということ。狭い世界で生きていると、忘れそうになる。自分とは違う世界を想像できることが、きっとやさしさにつながるのだろう。なんて思う。

地方に出張しまくった10月を経て、11月は家庭の事情で約3週間、実家の北九州で過ごした。取材はほぼオンラインで、小倉から大阪への出張もこなした。
意外とイケるな!
実験的な3週間で手応えを感じたので、来年以降、東京(本拠地)、北九州(実家)、ソウル(推し活)の3拠点生活も夢じゃないかも? なんて妄想しているところ。
え、交通費が必要? ……ですよねー。
はい、がんばって働きます。

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